日本を再生可能エネルギー大国に

 日本エネルギー経済研究所によれば、日本が化石燃料の輸入に支払ったお金は2018年度に年間19兆円を超えるとのこと。同じ2018年度に私たちが支払った所得税の総額19.9兆円にほぼ匹敵するお金が海外に流出していることになります。
 日本のエネルギー自給率は2018年度の時点で11.8%しかなく、先進国の中で最低レベル。ほとんどが輸入である化石燃料に85.5%も依存している姿は、エネルギーの安全保障上も好ましくありません。
 環境省の試算によれば、日本全体で電力需要の最大1.8倍もの再生可能エネルギー供給力(1.8兆キロワットアワー)があると推計されています。つまり日本は、潜在的な再エネ大国であるにもかかわらず、十分に力を発揮できていないのです。
 その再生可能エネルギーは都市部より自然環境豊かな地方に多く眠っています。しっかりとした橋を架けることができれば、エネルギーとお金の循環が都市と地方の間で活発になり、人の流れが変わり地域に人が集まり、再エネを中心とした分散型の社会が実現可能となります。
 日本は、国土の7割近くが森林です。しかし、その4割がスギやヒノキなどの針葉樹を植えた人工林で、その多くが間伐などの手入れが行われず荒廃し、災害を拡大させる要因の一つとして大きな社会問題となっています。
 一昨年9月、千葉県に上陸した房総半島台風は、最大瞬間風速57.5メートルという、関東では、島しょ部を除いて観測史上最も強い暴風でした。この影響で、約2000本の電柱が倒壊損傷し、房総半島を中心に最大で約16日間にも及ぶ大停電をもたらしました。その要因の一つは、各地で電柱を切断したスギなどの倒木でした。
 倒れた木の多くに、地元特産で250年以上前から植林されているというサンブスギが含まれているとのこと。サンブスギの大量倒木の原因は何か。千葉大の高橋輝昌准教授は、手入れの問題だと言います。通常であれば、枝打ちをして10年に1回ぐらい間引きをするが、それがされないと木が光を求めて上に伸びる事しかできず、細長くなり、倒木の原因となる。また、非赤枯性溝腐病の症状で、幹が変形しています。日当たりの悪い枝を根元から綺麗に切り落とす枝打ちという作業をしていれば、まずこの病気にかかりにくいとのことです。
 岡山県には、林業の衰退や山の荒廃を逆手に取り、再生可能エネルギーをてこに乗り越え、地域経済を大循環させている所があります。真庭市です。国内有数の1万キロワットの出力を誇るバイオマス発電所が41億円の総工費をかけて2015年に完成。フル稼働して一般家庭2万2000世帯分の電気を生み、年間24億円の売電収入を得ています。森林も手入れが行き届き、林業も活性化するという理想的な「真庭システム」が完成し、年間14億円ものお金が地域に還元されています。この循環が起きれば、山は永遠に価値を生む、「宝の山」になります。国としても、林業・木材産業を基盤としたバイオマスタウン構想を進める岡山県真庭市を参考に木質バイオマスの有効活用に取り組むべきです。
 ドイツやオーストリアでは、シュタットベルケと呼ばれる都市公社があり、電気・ガス・水道・交通などの基礎インフラを一括して提供する自治体出資型のサービスがあります。各県も水道事業を営み、市や広域水道事業団で経営している所もあります。今、森林は、木材を提供するだけでなく、二酸化炭素を吸収して温暖化を減少し、酸素を供給し、水源を涵養し洪水を防ぐなど、多面的で公共性公益性の強いものとなっています。
 そこで、我が国でも、森林を維持管理し、間伐材などの地域資源で発電を行い、更には余熱を利用して温室ハウスで野菜や果物の栽培、魚の養殖を行うことができればと考えています。(仮称)森林発電農業公社と名付けています。そうすれば過疎化が進む地方に新たな職場ができる事になり、地域経済が活性化し人口減少に歯止めをかけることもできます。
 森林発電農業公社は地域に小水力や地熱等があれば、それらを活用して発電を行うことも想定しています。
 日本は、世界的に見ても降水量が多く山が高いという、水力発電に適した国です。元国土交通省河川局長竹村公太郎氏は、「国のダムで、発電を目的としたものは半分ぐらい。地方公共団体のダムはもっと少なくて、3分の1ぐらい。現在、水力の全発電量に占める割合は9%台ですが、国が総力を挙げて全てのダムに発電機を付け、ダムの運用変更やかさ上げ工事など様々な工夫をすれば、既存のダムを利用するだけで、占有率を30%ぐらいに上げられる」と指摘しています。年間2兆~3兆円に相当する国産エネルギーが生まれます。
 実際、福島県にある県営四時(しとき)ダムは洪水対策と工業用水の確保を目的に造られましたが、その後新たに発電機を設置して小水力発電を始め760世帯分の発電量があります。脱原発、脱化石燃料の上からもぜひとも実現する必要があると考えます。